一瞬虚を突かれた貴更の前に薮の向こうからほたるが現れました。右手に外れた珠飾りを持っています。
「なんていたずらっ子なんでしょう。貴更様から頂いた大切な珠飾りを。危ういところでした」
左手に珠飾りを付けながら、ほたるは貴更に笑いかけます。が、その目が見開かれます。
「貴更様！ おみ足が。申し訳ありません」
ほたるが足もとに身を屈めたのにつられて見て、初めて貴更は自分の素足の小指が石の縁で切ったのか出血していることに気付きました。
「土の毒が入ります。縁側におかけ下さい！」
そう言うやほたるは腰掛けた貴更の傷付いた左足を両手で支えて持ち上げ、泥が付き血の流れる小指を口に含みました。
「！」
熱い舌がしきりと小指を舐め、傷口から泥と血が吸い取られる感触を貴更はほたるのうつむいたうなじを見下ろしながら覚え、頬が紅潮してゆくのを止めることが出来ませんでした。
檸檬児
'2002-11-10