月の館
会員制秘密倶楽部「月の館」。
それは現在に甦ったサッフォーの楽園とも呼ばれます。
人里離れた山中に、特殊な嗜好を持つ淑女が信頼できる顧客様からの紹介によってのみ入会を許される男子禁制の快楽の洋館があるのです。
明治時代の貴族達の秘密の嗜好を満たすべく内密に建てられた館とも、有力な政治家の隠れ家として使われたとも言われていますが、確かなことは分かりません。
ただここが「月の館」と呼ばれる由来は、各部屋の天井が大きな嵌め込みガラスになっていて、夜には覆いが外され部屋が月の光で満たされる趣向になっていたからなのです。
部屋の明りを消し、天井の覆いを外して月の光のもと狂おしく女性同士の禁断の快楽に身を委ねることこそ、選ばれた顧客様にのみ許される羨望に満ちた涜神の秘儀なのです。
屋敷は多くの部屋に分かれ、さらに顧客様の多彩な嗜好を満たすべく厳しい訓練を受け特技を身に付けたさまざまな少女達が貴女の来館を待ちかねております。
その中のいくつかの部屋を紹介しましょう。
ここは赤の部屋。
待ち受けるのは澄江と冥のペア、ディノ・レディースです。
正統派女王様の澄江は貴女の隠された被虐のサガを情容赦もなく引き摺り出し、官能の震えをめくるめく極限の高みへと舞い上げます。その至高のワザにより澄江は淫虐の天使とも呼ばれています。
対する冥は薬学の天才。
ローマの時代にさかのぼる西洋と東洋の貴族世界の暗部で用いられたあらゆる秘薬の知識を駆使して、人間に許された感覚を超え禁断の法悦境へと貴女をいざなうのです。
ここは青の部屋。
待ち受けるのは盲目の妹姫・ほたるです。
「月の館」の秘蔵っ子とも呼ばれ、視覚の不自由さゆえに研ぎ澄まされた全身の感覚が、貴女自身の意識していなかった肉の反応を機敏にとらえ、果てしない奉仕の愛技で貴女の加虐の心を満たしつくします。
甘えん坊の妹として、貴女に心の底からの安らぎをもたらしてくれることでしょう。
付き従うのはほたるのパートナーのルージュ。
ほたるの調教師でもあり、世話役でもあります。
一級の特殊工作員であった過去を持つルージュは、プレイ中は全くの黒子に徹しますので貴女は彼女の存在すら意識しないでしょう。
なぜ、ルージュが付いているのかですって？
それは、ほたるの発する余りに純粋な「いじめて電波」に心を狂わされ、限界を超えた責めに至る顧客様がたまにおいでになり、その際にはルージュがお止めするためです。
それも顧客様のおためなのです。
なぜなら、もし万が一その限界を超えてしまうならば、貴女は人としての姿を保っていることすら出来なくり、浅ましい淫獣と成り果ててしまうからでございます。
ここ緑の部屋は特別な部屋です。
「月の館」の全てを取り仕切る支配人・ミストレス桃井の個室なのです。
この部屋に通されるのは政界の大物、世界の貴族と言った本当に選ばれた淑女のみです。
そこで交される会話、交渉が部屋の外に漏れることは決してありません。
謎めいた過去を持ち、この業界では「闇の淫虐師」とも呼ばれ、館の全ての人間に恐れられるミストレス桃井ですが、ボディーガードでこの館の唯一の男性であるヒロと寛ぐ時だけは、穏やかな表情を浮かべます。
巨大な体躯を誇るヒロは、しかしその体格に似合わず裏方に徹し、館のマネジメント面での采配を振るいます。
ミストレス桃井とは古くからの知り合いらしいのですが、桃井の過去と同じく詳細は誰も知りません。
ミストレス桃井はその髪を切りません。
一度、澄江がそのことを尋ねたことがありましたが、待っている人が現れるまで願を掛けているのだと、謎めいた答えが帰ってきただけでした。
ただ、その時の澄江を見つめた桃井の顔に、いつもの怜悧さが一瞬和らいだと澄江は感じました。
次の瞬間には元のミストレスに戻ってしまったのですが。
おしまい
賢明なる読者の皆様には既にお分かりのことと思いますが・・・（(C)白土三平）
この「月の館」の元ネタは、とりマイアさん（ご本人のHomePage 藍色らんどはこちらです）のボーイズ・ラブ・マンガ作品「星の館」シリーズのあからさまなパクりです。ファンのかた、また万が一ですが作者様ご本人がご覧になった際には苦笑してお許しいただければ幸いです。
なお、とりマイアさんの「星の館」シリーズ全５巻は光彩書房から番外編１巻はオークラ出版から発売中です。
檸檬児
'2004-11-21