悪のお姉さんズ
おそらく昔読んだみなもと太郎さんの『ホモホモ７』か、さもなければ昔のＴＶドラマ『マリンコングの大逆襲』の女首領のせいか、「悪のお姉さん」というものがずっと大好きです。
それにカッコいいお姉さん二人組のユニットというのが、また好きです。
以前の人形イベントで、龍神椎根さんの作品のいかにも対照的な性格のヘッドを２つ手に入れました。
二人は見るからに「攻め」と「受け」っぽく、思い立ってシーンを組んでみました。
冥と澄江のユニット「ディノ・レディース」です。
「ぢゃ、ぢゃーん！」
と、カッコよく登場したところです。
レディー・冥です。何を考えているかよく分かりません。このチームの知恵袋です。
こちらはレディー・澄江です。荒事が得意です。
澄江はいつも陽気で攻撃的で、自分が「攻め」だと思っています。
冥を一番分かっているのは自分だと信じています。
冥に頼られると澄江はすぐ調子に乗ります。
澄江も落ち込むことがありますが、そんな時には冥が付き添ってあげるのです。
冥に話を聞いてもらい、冥の冷たい手で撫でられると落ち着くのです。
澄江の頬は熱く、吐息も熱く、冥は澄江を撫でるのが大好きです。
自分が「総受け」だという自覚がない澄江を冥は可愛くてたまりません。
そんな２人に組織の他のメンバーは呆れていますが有能な闘士なので放置ぎみです。
ライバルのルージュなどは２人の姿を見かけるたびに「バカップル」と口にする程です。
そんなルージュ自身が以前、組織から抜けたハニーさんを潜んでいた村で見つけ闘って断崖から突き落とした時に、目撃された村娘のほたるちゃんをさらって来て以来、ほたるちゃんを自分専用の侍女に仕立て上げておもちゃにしているありさまです。
ハニーさんの落ちた断崖は深く、川も急流でルージュもこの時はそれ以上の追跡を諦めました。ハニーさんの生死は分からず、ほたるちゃんがいつかハニーさんが助けに来てくれることを願っていることをルージュは笑いものにしています。
ーーーー ここから先は諸般の事情から15禁とさせていただきます ーーーー
（だけど、15歳未満でこんなとこにアクセスしてくる子なんているのか？）
「あの戦闘ヒヒときたら色事の加減を知らんもんだから、ほたるに無茶苦茶をしてる。そのうち壊してしまうぞ。冥が教えてやったら？」
ロビーで澄江と冥は夕食後に語り合っています。
「他人がどうこう言う問題じゃないでしょう。初めての経験だから自分でもどうしたらいいのか分からなくて戸惑っているのよ」
冥は壺から飲み物をグラスに取り、澄江に手渡します。
壺の中身は冥が調合した特製ドリンクで澄江と冥はくつろぐ時はいつも一緒にこれを飲み合います。
「こっちが迷惑する。先日もトレーニングの時に奴がほたるを侍女気取りで連れてきたのは構わないんだが、いいとこ見せようとしてわたしにムキになって掛かってきてなあ。今でも青あざだぞ」
グラスを一口飲み、澄江は空いた手で脇腹を叩きます。
「可愛いところあるじゃない。それだけあの子を気にしてるんでしょう。まだ加減が分からないからぎこちないだけよ」
「うぶなネンネじゃあるまいし見てられんわ。第一毎晩うるさくてかなわない。奴の部屋はわたしの隣だぞ。毎晩ほたるの悲鳴やら泣き声が聞こえてきて、あのムッツリスケベは一体何をやらかしているんだ？」
「誰がムッツリスケベだ」
全く気配がなかったのに二人の後ろから突然尖った声が聞こえます。
「おまえのことだよ、ルージュ。やだやだ、ストイックな格闘バカを気取ってると思ってたらとんだ淫乱ぶりでなぁ」
澄江は頭をのけ反らせて背後に声を飛ばせます。
「おまえに淫乱呼ばわりされるいわれはない！ おまえこそ何だ、ショーツをちらちら見せた格好でうろつき廻って恥じらいはないのか」
澄江は笑います。
「ものを知らん奴はこれだから困る。これはアンダースコートと言うものだ。見せるための下着だよ。それとも気になって堪らんのか、私の股間が？ それはおまえの頭の中がスケベで満タンなせいだろう」
「なにい」
ルージュの手が澄江の腰掛けた椅子の背に掛かります。掴んだ椅子の背板からきしみが響きます。
「そう言えば」
かまわず澄江はグラスをもう一口あおって言葉を続けます。
「以前はわたし達のことをレズだバカップルだと呼ばわっていたのに最近はさっぱり言わないな。自分がほたるに溺れて言えなくなったか。それは構わんがもちっと静かにさかってくれ。今のおまえはまるでヒヒだ。ほたるの悲鳴と泣き声でこっちは毎晩うるさくてかなわん」
「ほたるは悲鳴は上げるが泣いたりはせん」
頬を紅潮させルージュは固い声で答えます。
澄江は一瞬口を開け、次いで冥と顔を見合わせます。
冥は肩をすくめると自分のグラスを飲み干し、壺を片手にもう片手に自分のグラスを持って立ち上りその場を離れます。
澄江は笑いだします。
「こりゃいい。ここまで本物さまとは思わなかった」
「何がだ！」
「すっかりあの娘に骨抜きにされたか。道理でトレーニングでも腰がグラついているはずだ。引退して白い壁と赤い屋根の家であの娘と花売りでもして暮らしたらどうだ」
「なんだとぉ」
ルージュの手が後ろから伸び、澄江の肩を鷲掴みにします。
「試してみるか？ 骨抜きかどうか」
「ふむ・・・」
肩を掴まれたまま澄江は手に持ったグラスを見詰めます。
次の瞬間、手首の一振りでグラスに残ったドリンクがルージュの顔に叩き付けられます。
「望むところだ！」
澄江は吼え、座った位置から後ろ宙返りで跳ね上がり空中からルージュへと踵を蹴り込みます。そこには既にルージュの姿はなく横凪ぎに膝蹴りが着地した澄江へと飛びます。
唸りをあげる膝を受け流し、澄江は革コートの裾をなびかせてルージュに襲いかかります。
二人はロビー狭しと取っ組み合を始めました。
「仲がいいわねえ。嫉妬しちゃう」
ロビーの壁にもたれかかって冥は自分のグラスを満たして呟き、ドリンクを飲みます。
ふと気配に視線を横に走らせた先にはロビーのドアの陰に佇み中を覗き込んでいるほたるちゃんがいました。
冥は青ざめたほたるちゃんの顔を一瞥して微笑します。
「おいで。ルージュが心配？」
呼ぶ声にほたるちゃんはロビーに入り、冥の隣に並びます。
ほたるちゃんの目は格闘する二人の姿を追います。
床で身を受けた澄江の上から襲いかかったルージュの肘打ちを澄江は片手でブロックします。すかさずルージュはもう一方の腕を振り上げます。その腹部へと澄江の膝蹴りが下から襲います。
巴投げのようにルージュは前向きに跳ね飛ばされます。
「心配することないわ、あの二人には挨拶みたいなものよ。どう？ ルージュはやさしい？」
その問いにほたるちゃんは黙って下を向きます。
「ごめん・・・相変わらずみたいね」
「・・・暴力はいやです」
目を上げ、かすれた声でほたるちゃんはつぶやきます。
「そうかぁ、じゃあハニーはどう？ 彼女もここにいたのよ」
「ハニーさんは暴力をふるいません」
冥は微笑します。
「ここを脱けてあなたの村で暮らすようになってからはそうでしょうね。でも、ここにいた頃のハニーはね」
「聞きたくありません！ わたしの知っているハニーさんは・・・」
「あー、はいはい」
冥は腕を伸ばし、思いがけず激したほたるちゃんの頭を撫でました。
「申し訳ありません、冥様。こんな口をきいてしまって」
冥の手の平の下から、ほたるちゃんは大きな瞳で冥を見上げます。冥もほたるちゃん見詰め返します。
「ルージュがあなたを気に入った訳が分かっちゃったな」
冥は笑みを浮かべて、ほたるちゃんの頭から腕を外しました。
「でも、いい加減きりがないわね」
格闘する二人に目を戻すと、冥は胸元から薬液を満たした注射器を取り出しました。
右腕が注射器を構えて激しく上下左右に位置を変える二人へと照準を合わせます。
「冥様、それは！」
ほたるちゃんが顔色を変えます。
「ん？ パラライザーよ。暴れん坊を痺れさせるの。このままじゃ、どっちかが大ケガよ」
「いけません。目にでも当たったら、危険です！」
「大丈夫よ。私のシリンダー投げはナース派手並よ」
「でも、あんなに激しく動いているのに。わたし、ルージュ様を止めます！」
ちょうどその時、ルージュが冥とほたるの手前2m 程で背を見せて一瞬止まり澄江と対峙しました。
「ルージュ様！」
冥が注射器を持った腕を振りかぶるのと、弾かれたようにほたるちゃんがルージュの背中に両手を広げて飛び出すのが同時でした。
「あ！」
気配に振り返ったルージュの反射的な蹴りがほたるちゃんの右胸にめり込むのと、澄江と冥の口から短い叫びが吐かれるのも同時でした。
吹き飛ばされ壁に叩き付けられたほたるちゃんがずり落ちてゆくのを、ルージュはキックした片脚を上げたまま呆然と見詰めていました。
「阿呆！」
ルージュを怒鳴りつけ澄江が真っ先に床に崩れ落ちたほたるちゃんに駆け寄りました。
「触れるな！ わたしが運ぶ」
ほたるちゃんへと伸ばした澄江の手を払いのけ、ルージュは素早くほたるちゃんを抱き上げます。
冥は既に医務室に向かって廊下を駆けています。ルージュと澄江はその後を追って駆け出しました。
すぐさまICU に運ばび込まれ、MRI をはじめとした器具に電源が入れられ、白衣を身にした冥と医師達がベッドの上に横たわったほたるちゃんを取り囲みます。
ルージュと澄江はICU 外の医務室に残されました。
「後は冥達にまかせろ。わたし達には何もできん」
医務室の壁に背を預けて立った澄江は、椅子に座り込みICU へのドアを見詰めるルージュに声をかけます。
ルージュは何も答えません。
「戦闘なら同士討ちだぞ、あれは。敵と味方の区別もつかんのか。訓練で単独戦を気取っていた果てがあれだ」
「黙れ！」
初めてルージュが口を開きました。
「・・・分かっている」
そう言葉を続けるとルージュは再びICU へのドアを睨み続けました。
防音ドアの向こうから何も聞こえてこないまま、時間だけが過ぎてゆきます。
「安心しろ。うちの医師団も冥も優秀だ」
１時間が過ぎようとする頃、澄江はルージュの肩に手を乗せます。
「あぁ」
ルージュが答えた時でした。ICU のドアが開きストレッチャーに寝かされたほたるちゃんが冥と医師の手で医務室へと運び出されてきました。
弾かれたように立ち上ったルージュはストレッチャーに駆け寄ります。
「もう大丈夫よ。この子のベッドまで運ぶわ」
白衣を脱ぎながら冥がルージュに語り、医師達に合図をします。彼らは一礼して医務室内の持ち場へと戻ります。
ストレッチャーはルージュ達の手で医務室を脱け、廊下を運ばれてゆきます。
「ルージュ様、ご心配をお掛けしました」
ストレッチャー上のほたるちゃんがたどたどしい声で上から見詰めるルージュへと声をかけます。
「はいはい、あなたは麻酔が効いてるんだからおとなしくしていなさい」
無言のルージュにかわって冥が軽くほたるちゃんの毛布を叩きます。
部屋のベッドに移され、ほたるちゃんとルージュの二人だけ残されます。冥と澄江はストレッチャーを医務室へ戻しに行きました。
麻酔と睡眠剤を処方されたというほたるちゃんは、ぼんやりとした目でベッドサイドの椅子に腰掛けたルージュを見上げています。
ルージュはほたるちゃんの額に手を置きます。
額は傷のためなのか熱を持ちうっすらと汗ばんでいます。
「ほたる、もう寝ろ」
額に手を置いたままルージュは囁きます。
ルージュの手の下でほたるちゃんの頭が小さくうなずき、目を閉じます。
「ほたる・・・すまん」
目をつむったほたるちゃんにルージュは語り、その手を額からはずしました。
椅子から立ち上ったルージュが気配に振り向くと、開いた部屋のドアの向こうから冥が手招きしています。
「どんな具合だったんだ、冥」
部屋から出て後ろ手にドアを閉めると、ルージュは廊下で腕組みして待っていた冥に勢い込んで尋ねます。
「傷自体はたいしたことないわ。打たれた肋骨にヒビが入ったことと衝撃で鎖骨が折れたことだけね。内臓にも異常はないし、脳にも影響はないわ。身体が軽くて柔らかかったおかげね。骨折のショックで発熱しているけれど麻酔と睡眠剤で一晩寝れば明日には熱は引くわ。でもね」
冥はルージュを睨み付けます。
「過労と全身のあのキズは何？ それに、成人女性ならともかくまだ未熟な女の子の身体なのにあそこまでどうやったら身体を荒らせるの？ 澄江が言ってたみたいに本当に毎晩ガツガツさかっていたのね」
「ほたるは・・・私のものだ！ 他人に扱いをどうこう言われる筋合いはない」
頬を赤らめルージュは冥をにらみ返します。
「あっ、そ」
冥は唇を歪めます。
「おもちゃのつもりならそれでいいけど、大事なものなら大切にしたら？ 大事なんでしょ」
冥は腕を組んだままルージュの部屋の閉じたドアに視線を向けます。
ルージュも共にドアを見詰めます。
「おもちゃにも遊び方があるのよ。あなたは自分のやり方で奪うばかりで知ろうともしない。相手を悦ばせる身体の交わり方だって知りもしない。キスの仕方も知らないんでしょ」
「何を言いだす？」
「ルージュ！ あの子があなたのものだってことは認めるわ。そのことに干渉はしない。でもね・・・おもちゃならもっと楽しく遊んであげたら？」
「何でわたしがそこまでほたるにしてやらなければならん！」
「ふーん。じゃ、なぜあの子が倒れた時にあんな真っ青になったの？ 医務室で待ってた時のあの情けない顔はなに？ なぜさっき眠ったあの子に詫びたの？」
「それは」
ルージュは言葉が続きませんでした。
「ルージュ、もっと自分にすなおになりなさい」
冥は組んでいた腕をほどき、ルージュの背中に回します。
「何をする！」
「ルージュ、今はわたしに従いなさい！」
突然の冥の仕草に呆然とするルージュに冥は強く言葉を放ちます。
その勢いにルージュは近づく冥の顔を見詰めるばかりです。
冥の唇はルージュの唇を覆い、唇と舌は滑らかに動いてはルージュの口の全てに触れ彼女の唇と舌を誘います。冥の両腕はルージュの頭と背中を撫で続け、身体を擦り付け合わせます。
ルージュはまるでさっきまでのベッドに横たわったほたるちゃんのようなぼんやりとした目で、冥の口づけを受け続けました。
いつ終ったのか、冥は唇をはなし、その腕から解放してくれていました。
「これが本当のキスというものよ。初めてでしょ？」
悪戯っぽく笑う冥の前でルージュは我に返りました。
「失礼する！」
頬がその髪ほどに赤く染まり、ルージュは身を転じてドアを開いて素早く向こうに消えました。
閉じられたドアを見ながら微笑する冥に後ろから声が掛かります。
「よくやるよ、あんたは。何考えてんだよ」
頭を掻きながら澄江が苦笑して立っていました。
「だって可愛いんだもん。不器用で」
振り返った冥は笑いかけます。
「だからって、他のやり方はなかったのかよ。あんな極上のキスをしてやるなんて」
「あら、嫉妬？」
「おおよ！」
「じゃ、澄江にもしてあげる」
「それじゃルージュと間接キスじゃないか」
「いらないの？」
「もらう」
言うが早いか、澄江は冥を腕の中に包み込みました。
抱き合ったまま二人は笑い合います。
ルージュの部屋では、ほたるちゃんはすっかり眠り込み静かな寝息を立てています。
その上に覆い被さってルージュはほたるちゃんの寝顔を見詰めています。
寝入ったほたるちゃんを起こさないよう、ルージュは身じろぎもしません。
「なんであそこまで構ったんだ？」
「あなたもでしょう、澄江」
隣の澄江の部屋で冥と澄江はグラスのドリンクを飲み合いながら語らいます。
「そうね・・・あの子のファンだからかな」
「あぁ、確かにいい子だ。だけどまた嫉妬のタネが増えた」
そう言うと澄江は冥をいきなり抱き寄せました。
「きゃん！」
そして二人は見詰めあい咽を鳴らして笑い合います。
「でもね」
冥は澄江の腕に包まれて呟きます。
「いつかルージュはあの子で身を滅ぼすわ」
いつか続く（のか？）
・・・と言う具合に、悪のお姉さん達を考えたのはいいのですが、そのお姉さん達を擁する悪の組織とか、その組織の目的とかは全く考えておりません。