桜散る庭

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　十番中学の桜田春菜が月野うさぎを見送ってから、三年になる。
　一年生から三年生に至るまでさんざん面倒を掛けたあげく、それでも卒業式の日に自分の胸に顔を埋めて泣き伏してしまったうさぎに、自分も思わず涙ぐんでしまった。
　成績については最後まではらはらさせられ、さらにはさまざまな騒動が起こるといつもその中心にいて手間を掛けさせられた子だったが、誰とでもすぐ友達になり、不思議に憎めない子だった。
　今年の三年生も卒業し、ガランとした春休み中の校庭を眺めていると、もう三年も前の担当だったうさぎの軽い足音と頭のおだんごから風になびく長い二本の髪のふさ、高い笑い声が目の前を通り過ぎてゆく白昼夢がよぎり、苦笑する。

　始業式が終わったら、また自分は一年生の担当になり、新たなサイクルが始まる。
　その、三年ごとのふとしたはざまに想い出されるのは、なぜかうさぎのことだった。
　もう高校を卒業する頃だろう、どんな娘になっているのだろう。
　もしかしたらあの頃とは想像もつかないしとやかな女性になっているかもしれない。
　あるいはもしかしたら、あの頃と全然変わってなくて、あいからわずお団子頭のままで・・・とふと想いを馳せ、甘酸っぱいほほえみが頬に浮かぶ。

「ももちゃん、こっちこっち」
　ふと、校舎の蔭からピンクの髪の少女が飛びだし、あやうく春菜とぶつかりそうになって立ち止まる。
「あ、ごめんなさい」
　少女は大きな目を見開いて春菜を見上げ、元気な声で詫びる。
「今度の新入生？」
　春菜はふと、その少女の顔立ちにうさぎの面影を見たような思いがした。
　角のように髪をまいた二本のお団子も、うさぎを想わせる。
「はい、学校の下見にお友達と来たんです。あの・・・先生ですか」
「そうよ。でも学校の中ではちゃんと前を見て走ってね」
「はいっ」
　明るく、こくんと頭を下げたその少女に、さらに語りかけようとした時だった。
「うさぎちゃーん、こっちの体育館すごいよお！」
　校舎の蔭から別の少女の弾んだ声が二人の耳に、とびこむ。
「あ、ももちゃん、すぐ行くう」
　全身で後ろをふり返って、ピンクの髪の少女は呼び返す。
「じゃ、失礼しま〜す」
　チラと春菜をふり返って挨拶をするや、少女はもと来た方角へとはじけるように駆け出した。

　その後ろ姿に思わず手を差し伸べる姿勢になった自分に、春菜は気が付いた。
　苦笑と共に春から自分はあの少女の担任になるのではないか、という予感が春菜の心に舞い降りる。
　うさぎと呼ばれたあの少女の高い笑い声が、風に乗って春菜の耳にふわりとこだまする。

了

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