エピローグ・午後のお散歩
シンシアの家に泊まりがけで遊びに来たシャルル君とほたるさんが、シンシアの好きなお茶とケーキを楽しみに近くのオーストリア・カフェに外出しました。
お屋敷のパティシエのルイス君が作るケーキも美味しいのですが、今日は外を散歩したいとのシンシアの希望でした。
出歩くのが好きではなかったシンシアですが、この頃は積極的に外に出ているとのことでした。
ほたるさんもシャルル君と同じくシンシアからプレゼントされた服を着ています。
「シンシアは楽しそうではないか」
通りに面した古い洋館の窓のレースのカーテン越しに秋の石畳をシンシア達が散歩している姿が見えます。
電灯のない北を向いた窓からの明りだけが差す部屋で教授が愉快そうにミリアムに話しかけます。
「あの時、教授がシンシアを手放さなければ、今でも私と一緒にいたのに」
ミリアムは尖った声で教授に応え、目は窓の外のシンシアに注いだままです。
シンシア達はカフェに入って行くところです。ほたるさんとシャルル君が両側から軽く肘に手を添えています。
「無茶を言うな。まさか、あの時レディーが助けに来るとは思っていなかった。私もあれは苦手なのだ。リラゼルがいなかったらどうなっていたと思う」
「教授も意外にだらしがないのね」
その声に教授は喉を鳴らして笑います。
「珍しいな、ミリアムがそんなに感情を露にするとは」
その手をミリアムのおとがいに当てて上向かせ、顔を覗き込みます。
「ミリアムも女の子だったってことか。可愛いところがあるぞ」
「やめて！」
ミリアムは教授の手を払いのけ椅子から立ち上がって窓際へと向かいます。もうシンシア達はカフェに入ってしまい姿は見えません。
「会いたければ会いに行けばよかろう、妙な意地を張らずとも。それとも怖いのか？」
ミリアムは振り返り教授を睨みつけます。逆光に白く光るレースのカーテンの前のミリアムのシルエットの中で目だけが青々と輝きます。
「会いにゆくわ、これから」
教授は声を立てて笑ながらフックからマントを外します。
「それでこそミリアムだ。シンシアは夢の中で出会った我らを覚えていまいがな」
マントを羽織った教授は、そのマントを片腕で大きく広げてミリアムをいざないます。
ミリアムも教授に近づき、微笑みを浮かべてその顔を見上げます。
マントがゆらりとはためき、ミリアムを覆って空を舞った時、もうその部屋にはミリアムも教授もマントそのものも消え、誰もいない静寂だけが部屋に残りました。
同人サークル「瀬」
檸檬児
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'2001-11-26